できることは、無限。「アリミノ フォトプレゼンテーション2024」最優秀作品賞・HIKARIS新保友香さんに聞く、クリエイティブワークで広がる美容師の可能性

Apr 10.2025
SCHOOL

「アリミノ フォトプレゼンテーション」は美容師と美容学生を対象として、1995年にスタートしたフォトコンテスト。美容業を「お客さまに密着したデザインの仕事」と考え、その人の一部分でしかないヘアだけの表現にとどまらず、トータルコーディネートやシチュエーションを含めた、全体の発想力や美意識が表現された作品を募集しています。

2024年度は「FUSION(フュージョン)」をテーマに開催。応募者一人ひとりから、多彩な作品が集まりました。

美容師部門の最優秀作品賞に輝いたのは、「HIKARIS(ヒカリス) 中崎店」メイクアップディレクターの新保友香(しんぼ ゆか)さん。お腹に命を宿した女性が、力強い視線で立つ姿が印象的な作品で、最優秀賞作品と同時に審査員(世津田 スン)賞も受賞されました。

HIKARISからは、新保さんの他にも複数の応募者が最終ノミネートに選ばれています。しかし、新保さんの入社当時、サロンではクリエイティブワークを行われていなかったといいます。そんな環境の中で、新保さんはどのようにしてクリエイティブワークに取り組み、今回の作品を生み出したのか。また、今回の作品に込めた想いとは?

2025年2月、渋谷で行われた「アリミノフォトプレゼンテーション 作品展」の会場で、最終ノミネート作品に囲まれながら、新保さんにお話を伺いました。

「人×新たな命」の力強い“フュージョン”を、「軸」と「曲線」で表現

―― 最優秀作品賞受賞、おめでとうございます。

新保さん(以下敬称略)ありがとうございます。

―― まずは、受賞されてみて、いかがですか?

新保最初は、ただただ驚きが大きかったですね。「アリミノ フォトプレゼンテーション」には、これまで何度も応募していました。でもこのコンテスト、難しいんですよ。他のコンテストと違って、審査員に美容師以外のクリエイターさんが多いんです。だから、技術やトレンドだけでは突破できない。傾向と対策みたいなものが通用しなくて、どんな作品が通るか読めないんです。

だから、結果を検索して「最優秀作品賞」に自分の作品が出てきた時は、「あれ? 『最優秀』ってどういう意味だっけ?」としばらく飲み込めなかったくらい(笑)。本当に、驚きました。

受賞できて一番うれしかったのは、サロンのスタッフやお客様がとても喜んでくださったこと。その反応を見て、改めてうれしいなと思いました。

―― 今回の作品は、モデルが妊婦さんというインパクトのある一枚です。授賞式では、審査員の世津田 スン氏も「説明がいらない。見た瞬間に“フュージョン”が伝わる作品」と講評されていましたが、どのようにしてこの一枚にたどりついたのでしょうか?

新保“フュージョン”という言葉からまずイメージしたのが、「力強さ」でした。また、たまたま作品づくりのタイミングで、何度もお世話になっているモデルさんが妊娠されていることを聞いて、私の中で「人×新しい命」と力強い“フュージョン”のイメージがグッとマッチしたんです。

妊娠・出産は、人生の中で大きな転機のひとつ。美容師として、そうした人生の瞬間に寄り添った表現もしたいという想いも常にありました。だから、この一枚が撮れた時は、その想いを形にできた気がして、すごくうれしかったですね。

力強い生命力を感じさせる女性像をイメージした作品

―― 「力強さ」を引き出す上で、どのようなところを特に意識されましたか?

新保「軸」と「曲線」ですね。ボディラインとヘアのラインは曲線を見せて女性らしさを表現しながら、中心に直線の芯が通る立ち姿を捉えることで、ただ柔らかな曲線だけではない力強い生命力を感じられるようにしています。特に、ボディラインの曲線と、立ち姿にスッと通った軸がきれいに見えることには、かなりこだわりました。ヘアスタイルも、曲線を表現しながら全体のバランスを見て調整しました。

また、モデルさん自身の立体的でシャープなお顔立ちや視線も、作品全体に力強さを与えてくれていると思います。

―― 母になることと一人の女性としての力強さが表現されている作品での受賞は、モデルさんにとっても記念になったのではないでしょうか。

新保そうなんです。彼女は妊娠中もモデルの仕事をされていたのですが、他の撮影では全て衣装でボディラインを隠す方針だったそう。私の撮影が、妊娠中に初めてボディラインを出したものだったそうで、とても喜んでくれました。

クリエイティブワークはチームワーク。3種のシートで準備し、表現したいものを伝え切る

―― 作品づくりは、どのぐらいの期間をかけて取り組まれますか?

新保準備はいつも、だいたい2ヶ月前からスタートします。

―― どのようなステップで進めていくのでしょうか?

新保まず「分析シート」というものを使って、コンテストの分析から進めます。課題やテーマに対して自分がどういったことを感じたのかはもちろん、審査員はどのような方なのか、そのコンテストでは過去にどのような作品が受賞しているのかなどを分析していくんです。

例えば、今回の「アリミノ フォトプレゼンテーション」であれば、“フュージョン”から感じたものが「力強さ」だとお話ししましたが、これもこの段階でたくさんワードを出してどんどんシートに書いてたどりつきました。

私はiPadで作成していますが、手書きでもOK。一人ひとり、やりやすい方法でいいと思います。とにかく、頭の中の整理を一旦する。そして、分析シートを見ながら、自分の中で「ここを表現したい」「今回のテーマに対する私の解釈はこれだ」というブレない軸を決めていきます。

「アリミノ フォトプレゼンテーション」で実際に作成した「分析シート」

―― 「アリミノ フォトプレゼンテーション」は審査員が他のコンテストとは異なるとの話もありましたが、その辺りも最初の分析が大切になりそうですね。

新保そうですね、スタート地点としての土台ですね。そこから今度は、「デザインシート」というものをつくっていきます。モデルさんはどんな系統の方がいいかとか、どんなヘアスタイルがいいかとか。分析シートに書き込んだワードで、特にどこをチョイスしてやっていこうかとか。そういったイメージをデザインシートに起こして、ウィッグで練習したり、モデルさんと打ち合わせたりします。

ちなみに、デザインシートはいつも2回くらいつくります。

「アリミノ フォトプレゼンテーション」で作成した「デザインシート」

―― 途中でブラッシュアップするということでしょうか?

新保はい。1回目をつくった上で準備を進めますが、モデルさんに合わせてヘアも衣装も当初イメージしていたものから変えることがあります。実際に今回の作品は、当初予定していた衣装と異なるものでした。

あるいは、実際にウィッグで制作してみたら、イメージしていたものと形になったものが違ったというのもよくあること。頭の中のイメージ、実際の三次元、さらに撮影した二次元はそれぞれ異なるので、少しずつすり合わせて形にしていかないといけないんです。そこで2回目のデザインシートをつくります。

そうして撮影当日には、さらに「コンセプトシート」というものを用意します。コンセプトシートには、空気感や何色が見えているのか、どんな音楽がかかっているのかなどのイメージを記載しています。例えば、今回の作品は、強さを引き出すイメージで、ロックテイストなイメージでしたね。

「アリミノ フォトプレゼンテーション」で作成した「コンセプトシート」

―― 音楽や色などのイメージがあれば、モデルさんの顔つきやチーム全体の気分も変わりそうですね。

新保そう思います。クリエイティブワークはチームワーク。モデルさん、カメラマンさん、ディレクションスタッフ、みんなが一つにならないと、作品は完成しません。自分にできない部分を補い合いながら、一緒につくりあげることが大切です。そのためにも、「私はこういうものをつくりたいと思っています」と具体的に共有するコミュニケーションを心がけています。

だだ、私は言葉巧みに話せるタイプではなく、「バーンとした感じ!」といった表現になってしまいがちなので、シートを準備して作品づくりに臨んでいます。

―― 日々のサロンワークと、これだけの準備はどのように両立されているのでしょうか?

新保サロンワーク中は100%サロンワークの頭です。なので、クリエイションについて考えたり準備したりは、自然と朝や夜になります。それも明確に時間を決めているわけではなく、最初の分析シートからデザインシートまでは少し寝かせることも。グッと詰めるのはだいたい1ヶ月前、モデルさんが決まってから。集中できる時にグンと進めるスタイルです。

クリエイティブワークが下火になっていたところから「やりたい!」で行動し、クリエイションに強いサロンに

―― 3種のシートは、もともとサロンで用意されていたフォーマットなのでしょうか?

新保最近は「みんな、事前の分析をしっかりしようね」とサロンの後輩たちにフォーマットとして共有しはじめていますが、もともとは私がゼロから独自につくってきたものです。私がHIKARISに入社した約20年前、サロンではクリエイティブワークが一度途絶えていたんです。そこから、どうやったらクリエイティブワークができるのか、スタッフたちと試行錯誤して積み上げてきました。

―― 「アリミノ フォトプレゼンテーション2024」でも多くの応募者が最終ノミネートに残るHIKARISさんですが、以前はクリエイティブワークをされていなかったとは驚きです。

新保今、クリエイションを中心的に取り組んでいる同期のようなスタッフがいるのですが、そのスタッフたちと3年目ぐらいの頃に「クリエイティブワークやりたいね」と話したのがきっかけでした。

当時、そのことを現社長の小澤克朗(おざわ かつあき)に伝えたら、「ええやん!」と、カメラマンを紹介してくれました。他にも、私が「この美容雑誌に作品を載せたい」と小澤に話すと、「よし、じゃあ一緒に東京の雑誌社を回ろうか」と言って、東京に連れていってくれたり。彼自身、大学時代にプランナーをしていたこともあるので、その経験から美容師以外の視点や発想をくれたり、幅広いつながりを生かして人を紹介してくださったりしてきました。

―― すごい柔軟性とフットワークの軽さですね……!

新保そうですね。当時は今のようにSNSやインターネットの情報がなかったので、まずはやってみる、人に会って聞いてみる、でしたね。

また、こうしてゼロからはじめ、今ではサロンにクリエイティブチームができました。私は「メイクアップディレクター」として、メイクを中心にサロンのクリエイションを見ていますが、常に何かしらのクリエイティブワークが動いている環境になりましたね。私自身も1年に5〜6点ほど自分の作品づくりに取り組んでいます。

新保さんが過去に作成した作品

―― 新保さんはなぜ、ゼロからの環境でここまで取り組んでこられたのでしょうか?

新保なんででしょう……。でも、ただ単純に楽しかったんだと思います。楽しいとか、やってみたい、そういう好奇心が一番の原動力なんじゃないかな。

もちろん、イメージしたものがつくれなかったことも、失敗もたくさんしています。そのたびに落ち込みますが、めげずに続けていたら「楽しい」や、「これがつくりたかった作品だ!」という瞬間に巡り合えるんですよね。

クリエイションで知る0.1mmへのこだわりは、必ずサロンワークにも生きる

―― 新保さんはサロンワークも続けてきてらっしゃいますが、サロンワークだけ、あるいはクリエイティブワークだけに絞ろうと思われたことはありませんでしたか?

新保なかったですね。美容師である限り、サロンワークは仕事の中心だと思っています。一方で、クリエイションって美容師にとって大きなパワーになるものだと思うんです。やっぱり、美容師に必要な部分だなって。どちらも、取り組む物事が全然違いますから、私は両方やりたい、私って前向きな欲張りなんだと思います。

―― サロンワークとクリエイティブワークには、どのような違いがあるのでしょうか?

新保サロンワークで得られるのは「共感の喜び」だと思っています。出発点はお客様。お客様のなりたい姿を実現したり、お客様のライフスタイルに合わせてお悩みを解消するスタイルを一瞬でつくったり。それで「かわいい」「こうなりたかった」「毎日が快適」なんて言ってもらえたら、すごくうれしいですし、そこを目指して日々お客様と向き合っています。

一方でクリエイティブワークは、より「個人の喜び」かもしれません。出発点は自分が表現したいもの。作品を考える過程の楽しみや、出来上がった時の達成感がたまりません。

「アリミノ フォトプレゼンテーション]作品展」当日の様子

―― 反対に、サロンワークとクリエイティブワークが互いに影響することはありますか?

新保コンテストのためにつくる自分のデザインは、0.1mmにこだわって的確にカラーを塗ったり、髪の長さを緻密に調整したりします。このこだわりは、「サロンワークにおいても同じだよ」とサロンでみんなに伝えています。

例えば、グレイカラーのお客様は根元の1mm、0.1mmを気にされます。でも、まだ白髪悩みのない若い人には、その0.1mmの悩みがどうしたって実感しづらい。

でも、クリエイションに取り組むと、そのわずかな長さや色みの違いが、作品の仕上がりに大きく影響することを体感できる。クリエイティブワークとサロンワークでつくるスタイルは異なりますが、どこまで細部にこだわれるかという姿勢は、必ず生きてくると思います。

―― サロン全体としては、クリエイティブワークに力を入れたことでどんな影響が生まれましたか?

新保一番は、採用への影響でしょうか。クリエイションに関心のある美容師さんや、「HIKARISのスタイルが好きです」という熱量のある美容師さんが、よりたくさんきてくださるようになりました。私たちがどんなサロンなのかを就職希望者へお伝えするツールにもなっていると思います。

また、クリエイションに取り組むことで、先ほどのこだわりの話のように技術力の向上にもつながったと感じます。そこが、結果的に集客にもつながったのかなと思いますね。

あるものだけで、はじめてみればいい。まずはやってみる、それがクリエイションの入り口

―― 「やりたい」「楽しい」で突き進み、今回「最優秀作品賞」を受賞された新保さんですが、これからさらに取り組んでいきたいことはありますか?

新保最優秀作品賞をいただいて「アリミノ フォトプレゼンテーション」としては一つのゴールになるんですけど、自分の中ではここがゴールだとは思っていなくて。これからも、サロンワークとクリエイティブワーク、両方に取り組んでいきたいですね。

美容師のメインはサロンワークではありますが、美容師という仕事は、実は無限にできちゃうと考えていて。今は分業化が進み、ステージショーや雑誌撮影などはヘアメイクさん、メイクはメイクアップアーティストさんが担当することが多いですよね。でも、美容師はカットもカラーも、セットもできる。さらに私はメイクもやっている。作品をつくるという点においては、かなり強いスキルを持っていると思うんです。

だから、そういったステージや雑誌撮影など、より広いクリエイティブの業界にも踏み込んでいけるくらいの美容師のパワーを、大阪から広げて行けたらいいなと思っています。

―― 美容師という職業に広がる無限の可能性、ワクワクします。最後に、クリエイティブワークに関心がある方や、コンテストの応募を迷っている方へのメッセージをお願いします。

新保まずは、1回やってみましょう。きっと「カメラって難しいのかな」とか、「コンセプトってどうやってつくったらいいんだろう」といったことから分からなくて、不安で踏み出せない人もいると思います。お金もかかるし、というのもあると思う。

でも、カメラがなければiPhoneで撮ればいい。うちのサロンでも「とにかく撮りなさい」と言っています。はじめてみることで楽しさに巻き込まれ、自分が何を知りたいのかも見えてきたり、必要な情報が集まってくるようになったりします。

また、コンテストは「出したところで……」と感じることもあると思います。でも、挑戦し続けていたら、そのうちきっと何かが変わります。

新保それこそ、「アリミノ フォトプレゼンテーション」はコンテスト初心者におすすめですね。最初に、狙って取れないと話しましたが、逆に、審査員が幅広い業界から集まっているので、サロンネームや経験に左右されることなく、テーマに合った表現がされていたら1年目でも受賞してしまう可能性が十分あります。

きっと、みなさんは大丈夫。SNSが発達しているので、クリエイションに触れる機会や写真を撮る機会が私たちの頃より多いですし、一度はじめちゃえばすぐに上達しますよ。「やってみたい」と思ったら、その気持ちを原動力に動いてみましょう。

Profile
HIKARIS 中崎店 メイクアップディレクター 新保友香

新保友香Yuka Shimbo

HIKARIS 中崎店 メイクアップディレクター

大阪府出身。2002年高津理容美容専門学校卒業後、HIKARISへ入社。クリエイティブワークが下火になっていたところからクリエイションへの取り組みをリスタート。サロン全体を「クリエイティブワークにも強いサロン」に成長させる。ファッション誌ヘアメイク担当、業界誌掲載、コンテスト受賞歴多数。サロンワークではボブ、ウルフヘア、レイヤーカットなど大人カジュアルなスタイルを得意とし、自宅でのスタイリングが手軽で再現性の高いカットなど、一人ひとりのライフスタイルに合わせた提案を大切にしている。

Instagram:@yuka_00x0

「HIKARIS」サロン情報

大阪・中崎、吹田、東三国、相川に展開する老舗サロン。1930年創業。95周年を迎える今も、「EVER DELIGHT(常喜)」ことを大切にしながら、ヘアデザインとクリエイションに取り組む。美容を通じて、お客様、スタッフ、そして周囲の人々が喜びを感じられることを目指し、一人ひとりに寄り添う丁寧な施術と、最先端のスタイル提案を追求。伝統と革新が共存するサロン空間で、新しい自分に出会えるひとときを提供している。

店舗展開数 6店舗
従業員数 39名
サロンコンセプト 「常に楽しむ」を経営理念に、「お客様、スタッフ、周りの人が喜ぶことを追求する集団」「老舗×最先端のハイブリッドサロン」をコンセプトに掲げる
サロンターゲット 大人女性を中心とした幅広い年齢層

「HIKARIS中崎店」店舗情報

所在地:
〒530-0015
大阪府大阪市北区中崎西2丁目5-21 CB中崎町ビル 1&2F

Webサイト:https://hikaris1930.com/
Instagram:@hikaris_nakazaki

(取材・執筆/廣瀬翼、編集/A PRESS編集部、撮影/河合信幸)

アリミノフォトプレゼンテーション2025 開催決定!
次回はどんな作品が集まるのか、どうぞご期待ください。
詳細は アリミノ公式HP にて。