
「ゼロテク®」の生みの親・田中成由が語る新製品「ダブルコーム」の進化とホスピタリティのヒント
2025年9月、「ゼロテク®」対応の「CS ゼロテク ダブルコーム」が新たに発売されます。「ゼロテク®」とは、株式会社アリミノが1981年から伝え続けている頭皮に薬剤を付けない塗布テクニック。従来のハケによる塗布に対し、「ゼロテク®」では頭皮に負担をかけないようにコームを使用しています。そんな斬新なアイデアを取り入れた「ゼロテク®」の生みの親が、アリミノ社員・田中成由(たなか しげよし)です。
1972年の入社以来、アリミノの美容技術部門を牽引するとともに、延べ15,000人を超える美容師を対象に「ホスピタリティ・スピリットセミナー」の講義を行ってきた田中に、「ゼロテク®」の開発秘話やホスピタリティへの思いについて語ってもらいました。
「酸性カラー」の誕生と共に考案された「ゼロテク®。自ら試作を重ねた「コーム」へのこだわり

―― まず、「ゼロテク®」誕生の経緯を教えてください。
田中:「ゼロテク®」誕生の背景には、業界初の酸性カラー「メイクアップヘアカラー」がありました。酸性カラーは、髪を“傷めず、楽しく、美しく”というコンセプトのもとで1981年に製品化されました。
酸性カラーは、髪を脱色して染色するアルカリカラーとは異なり、髪への負担が少ないことが最大の特長です。ただ、地肌に付くと取れない性質が強く、塗布する際にそれをなんとかできないかと考えたわけです。
―― 酸性カラーの発売をきっかけに、頭皮にカラーが付かないようにする技術として「ゼロテク®」が考案されたということですね。
田中:そうです。カラーリングの際には、これまでハケで根元からベタっと塗布する方法が一般的でした。この方法で地肌にまで付着してしまうのを防ぐため、酸性カラーの発売と合わせて、コームを使って髪の根元ギリギリ(0mm)から染める技術「ゼロテク®」を考案しました。
―― ハケではなくコームを使うというのは、田中さんのアイデアだったのでしょうか。
田中:コームを使おうと考えたきっかけになったのは、ある美容室に商品のサンプルを持って行ったときに見かけたカラー施術でした。その美容室では頭皮に負担が少ない施術にこだわっており、ハケではなくコームを使っていたんです。それを見た瞬間、「これだ!」と思いました。
そこからしばらくは国内外の他社製コームを使った施術を行なっていましたが、よりカラー施術に特化したコームが必要と考え、オリジナルのCS-コームが誕生しました。
―― 今回新たに発売となった「CS ゼロテク ダブルコーム」の開発は、どのように進めていったのですか?
田中:近年、美容師もお客様もタイパ(タイムパフォーマンス)を重視する傾向が強まっています。そこで「もっとスピーディに、スマートに、シンプルに!」を意識したバージョンアップをおこないました。開発では、国内外のありとあらゆるメーカーのコームを取り寄せて自ら試作を繰り返し、改良を重ねました。
これまで美容師さんから届いた感想を参考に、コームを自らヤスリで削り2つ重ねてボンドでくっ付けてみたり、熱して、ひねって曲げて、グリップを持ちやすくしてみたり……。それを職人さんに依頼して、試作品もたくさん作ってもらいました。そうして完成に至ったのが、この「CS ゼロテク ダブルコーム」なんです。

―― 「CS ゼロテク ダブルコーム」のこだわりについて教えてください。
田中:CS ゼロテク ダブルコームでは、コーム本体に装着するアタッチメントコームを新たに導入しました。この形状によって、カラー剤をより多くコームに取ることが可能になります。従来のスライスの厚さが5mmだったとすれば、こちらは1.5cmほどに厚く取っても適量を塗布でき、スピーディな施術につながるというわけです。
また、カラー剤を髪の根元までしっかりと塗布しながらも、地肌には付かないよう、アタッチメントと本体の歯先を1mmほどずらす設計にもこだわりました。付け替え式のアタッチメントによって、右利き、左利きの両方に対応しているのもポイントです。

―― CS ゼロテク ダブルコームは意匠権(※1)を取得されたそうですね。「ゼロテク®」も商標権(※2)を登録されていますが、なぜこうした権利を取得しようと思ったのでしょうか。
田中:「ゼロテク®」は、2022年に商標権を取得しました。というのも、当時は「ゼロテク®」といってもコーム塗布を指したり、ハケ塗布でも頭皮につけない施術を指したりと、美容業界内で解釈にばらつきがある状況でした。そこで、アリミノとして「ゼロテク®」の解釈を明確に示そうとしたのです。
また、頭皮を染めないという利点に加え、アルカリカラーでの刺激や頭皮ダメージを気にする人向けにゼロテク®を活用できたことも後押しになりました。商標権を取得して正しい技術を広めていくことが、美容師にとってもお客様にとってもプラスになると考えました。
(※1)意匠権…物品、建築物、画像のデザインを保護するための権利
(※2)商標権…自社の商品やサービスの名称やロゴなどを保護するための権利
―― 「ゼロテク®」の技術を伝えていくうえで、苦労したことはありますか?
田中:当初は、ベテランの美容師さんほど、「ゼロテク®」を導入するのに抵抗感を抱いている人が多くいらっしゃるのを感じました。経験豊富だからこそ、慣れない新しい技術を取り入れることへの不安や抵抗もあったのだと思います。
そういったこだわりが強い美容師さんに「ゼロテク®」の技術を伝えていくため、サロンのオーナーさんを相手に根気強い説得を続けていきました。「お客さんは頭皮に負担をかけない施術を望んでいるんですよ」とか「サロンの生産性を上げることにもつながるんです」といったことを伝え、アプローチしていきました。また、営業部員一人ひとりが「ゼロテク®」について理解を深めて、社員一丸となって美容師さんに伝えていったということも、説得力につながった要因として大きいですね。
実際にレッスンなどを通して体験してもらうと、最初は難色を示していた美容師さんからも「カラー剤の量が少なくてすむし、思っていたより早く施術できるんですね!」と言っていただきます。今回のCS ゼロテク ダブルコームの発売を新たなきっかけとして、「ゼロテク®」の技術をさらに多くの美容師さんにお伝えして提案していきたいと考えています。
美容業界の仕事は、“ワクワク”や“ときめき”といった感動体験を提供する『ホスピタリティ&リピートビジネス』

―― 田中さんは現在、アリミノ美容教育プロデューサーとしてサロンリーダーやスタッフに向けたホスピタリティセミナーを担当されていますが、どういった経緯で美容教育に関わるようになったのでしょうか。
田中:私は地元・北海道の美容学校を卒業後、美容師としての勤務経験を経てアリミノに入社しました。インストラクター業を主軸に営業部や商品開発室などを経ながら、どっぷりと半世紀以上アリミノにいます。
国内外の著名な講師とコラボレーションしたり、美容師や美容学生向けのセミナーや講習会などを開催したりと、技術指導や知識向上のサポートに長く関わってきました。そういった専門家とのお付き合いの中で、約20年前に服部勝人さんという日本のホスピタリティ学の第一人者の先生と出会いました。
服部先生は「美容はサービス業ではない」とおっしゃっていたんです。これからはお客様とともに対等の関係性をつくっていく“ホスピタリティの時代”だと。私は服部先生の教えに共感し、ホスピタリティについてじっくりと学びながら、美容業界に伝えていくことを使命としてやってきました。

―― そもそも、ホスピタリティとサービスとの違いはどういったものなのでしょうか。
田中:「ホスピタリティ」はよく“心のこもったサービス”と勘違いされることが多いのですが、この二つは明確に異なります。「サービス」は上下関係が根底にあり、お客様はいつも絶対だという考え方です。このようなタテの関係に対して、「ホスピタリティ」は美容師とお客様、それぞれがお互いに対等でヨコの関係にあります。
また、「ホスピタリティ」はマニュアルにとらわれません。カットやカラーなどの基本技術を土台としつつ、そのうえでお客様を感動させ、その記憶に残るような応用型の技術・対応を発揮することが重要になります。
―― お客様を感動させ、記憶に残るようなホスピタリティを発揮するには、どんな意識や行動が必要なのでしょうか?
田中:たとえば、お客様がどういった要望をお持ちなのかを深く理解し、一人ひとりに最適な提案をすることです。
私は、お客様が美容師に対して支払うのは「プロらしさ」への対価だと思っています。お客様の“思い通り”にとどまらず、お客様がまだ気が付いていない“チャームポイント”を引き出すのが、プロフェッショナルの仕事です。プロとしての知識や技術はもちろんのこと、プロらしい立ち振る舞いや、会話を通してお客様がヘアについて抱えている悩みを引き出す力が求められるわけです。
これからは、このように物事の本質を見極め正解のない問題から答えを導き出す「人間力」が求められる時代だと感じています。

―― なるほど。たしかに美容師さんとの対話で、より自分の魅力を引き出してくれる提案があれば、お客さんに感動していただけますね。
田中:そうです。それがサービスの一歩先をいく“ホスピタリティ”なのです。さらに、ホスピタリティの成果の最たるものとして“高揚感”があります。高揚感というのは、美容室で施術を受けるときのワクワク感だったり、ときめきだったりといった気持ちです。こうした高揚感は記憶に残るので、お客様が「また、この美容室に来たい」と感じるリピートにつながります。美容業は、“ホスピタリティ&リピートビジネス”と言えるのです。
―― 田中さんが長きにわたり業界を見ていくなかで、時代とともに変化を感じることはありますか?
田中:特に2020年以降を機に、お客様の価値観が明らかに変わってきていると感じます。これはコロナ禍で生活が見直されるなかで「限られた時間をどう過ごすか」への意識が高まり、本質的な価値を重視するようになった結果だと思います。
これまで美容室というと、テクニックがすべてだったところがありますが、ここ数年はサロンの文化や歴史のような “情緒的なもの”、つまり目には見えないものに価値を見出す時代に次第に変化してきています。
技術だけを組み合わせてヘアデザインを作る、そんな時代は過去のものになりました。これからは美容師自身の“人間力”に加え、デザインの“発想力”、アフターフォローなどの“説明力”など、プロセス全体でお客様を満足させることが非常に重要になってきていますね。それがホスピタリティにつながっているのです。
シンプル、スマート、スピーディーなゼロテク®を、今こそジャパニーズスタンダードに

―― 先ほどのお話では、「ゼロテク®」もお客様の頭皮への配慮から生まれたとおっしゃられました。これもホスピタリティの一環ですね。
田中:まさにその通りです。「ゼロテク®」のテーマは、“シンプル、スマート、スピーディー”。CS ゼロテク ダブルコームを使用することにより、ここにさらなる相乗効果が生まれます。スピーディーにカラーができることで施術時間の短縮につながり、お客様ご自身の大切な時間が増えます。さらに、お店側にとっても稼働率や回転率が上がり、まさにいいことづくめです。
私としては、そんな「ゼロテク®」をぜひ「ジャパニーズスタンダード」にしていきたいと考えています。
―― 最後に、全国の美容師を目指す学生や美容師さんに向けて、メッセージをお願いします。

田中:皆さんにお伝えしたい言葉は2つあります。1つ目は、「人、その職を愛せば、職、必ずその人を養う」。この言葉は、昔、秋草学園という学校の創設者である故秋草かつえ先生に教えていただいた言葉です。
秋草先生と一緒にセミナーをやった際に、「田中さん、あなたは美容師さんのその職業を愛せる人を育ててください。職業を愛している人は、その職業がその人を養ってくれるんですよ」という言葉をいただきました。この言葉に背中を押されて以来、セミナーや講習会で皆さんにもお伝えするようにしています。
もう1つは、「技術は人柄を超えない」ということです。いくらテクニカルの面が非常に優れていたとしても、その人柄に問題があればうまくいきません。私がこれまでお会いしてきた美容業界の一流の方々は、皆さんとても謙虚で、人格者でいらっしゃいました。ここでも、「人間力」が大切だなと感じます。皆さんには、超一流美容師になっても決して驕らず、謙虚な気持ちで頑張ってほしいと思います。


田中 成由Shigeyoshi Tanaka
アリミノ美容教育プロデューサー、ホスピタリティ・コーディネーター
美容師経験(美容免許、管理美容師免許取得)を活かし、国内での美容セミナー講師活動の他、アメリカ、ヨーロッパ、アジアでの美容研修も数多く体験。現在はアリミノ美容教育プロデューサーとして数多くのサロンリーダー及びスタッフのホスピタリティ&セルフケアマインド向上セミナーを担当。2011.3.11以降のホスピタリティ・スピリットセミナーの受講者は、述べ15,000人を超え、好評を博し「美容大好き人間」として全国で活躍中。
Instagram:@ _s_h_e_g_e_2
(取材・執筆・編集/A PRESS編集部、撮影/河合信幸)