NEXT GENERATION #02 | grico 寺尾フミヤさん
大切なのはお客様との信頼関係。ヘアスタイルもファッションもお客様と一緒につくりあげていく

Jun 12.2025
COLUMN

今注目の若手美容師を紹介する連載「NEXT GENERATION」。2回目は、東京・原宿のサロン「grico HARAJUKU (グリコ ハラジュク)」の店長、寺尾フミヤさん。gricoで当時最速の2年でスタイリストデビューを果たし、最年少で店長に駆け上がった実力派の人気スタイリストです。店長としてサロンを切り盛りする一方で、アパレル事業「grico vintage」にも携わり、プライベートの時間でも仕事のことばかり考えてしまうという寺尾さん。「関わるすべての人を幸せにしたい」と熱く語る寺尾さんに、gricoに入社した経緯や仕事に対する想いを伺いました。

職人に憧れた少年時代を経て、“ 職人技術”が必要とされる美容師の道へ

―― 美容師を志したきっかけについて教えてください。

寺尾さん(以下敬称略)僕は島根出身で、中学までずっと野球部でした。男子も少しずつ見た目を気にしだす時期で、周りの子たちは前髪をセットしたりしてて。いいなと思いつつ、なにしろ坊主でいじる髪もなかったので、とくに美容に目覚めることもなかったんです。当時は、学校の職業体験をきっかけに大工さんのような「職人」に憧れていました。

美容師に興味を持ったのは、高校に入ってからです。陸上部に入って髪を伸ばし始めたら、だんだん髪をいじるのが楽しくなってきて。友達のヘアセットもしてあげるようになって、「もっと上手くなりたい」という気持ちが出てきたんです。美容師には職人っぽさもあり、「この道に進もう」と思いました。地元から出て一度都会に行ってみたい気持ちもあったので、高校卒業後は大阪の関西美容専門学校に入学しました。

―― 専門学校に通い始めた当時は、どんな学生でしたか?

寺尾専門学校では、1年生の夏前くらいになると周りの友達が「このサロンに入りたいんだよね」って話をするようになって。でも、当時の僕はサロンについてほぼ何も知らない(笑)。SNSで見かける流行りの店舗はなんとなく知っているものの、有名店さえ知らない状態でした。大阪に出てきたし、将来は大阪で美容師をするんだろうなくらいの感覚でしたね。ただ、やるからには美容師として活躍したいという思いはありました。

grico代表の考えに感銘を受け、「ここしかない」と入社を決めた

―― gricoを知ったきっかけを教えてください。

寺尾SNSがきっかけです。専門学生時代にTwitter(現X)を見ていたら、友達がリツイートしていたウェブ記事が流れてきて。それが、grico代表のエザキのインタビュー記事でした。その記事を読んでいなかったら今の自分はなかったと思うので、偶然の出来事ですが運命的なものを感じています。

―― 記事を読んで、どんなところに惹かれたのでしょうか?

寺尾その記事では、エザキが「鏡の前から生まれるものすべてを美容師の仕事にするというスタンスで、服づくりやセミナー、撮影、商品開発まで、美容師の枠を超えた活動をしていることについて語っていました。それを読んで、「美容師ってこんなことまでできるんだ」と衝撃を受けたのを覚えています。

さらに、gricoでは美容師が事故や病気などでハサミを持てなくなったとしても、アパレルの事業を行ったり、商品開発をしたり、セミナーをしたりといろんな形で仕事を続けていけることを知りました。美容師の枠にとらわれることなく、スタッフを守るために事業を広げていく。そんな姿勢に感銘を受けて、エザキのSNSでの発信をチェックするようになり、オンラインサロンにも入会しました。

―― その後、どんな経緯からgricoで働くことになったのですか?

寺尾最初はただのファンという感覚でしたが、「自分が受けた感銘を深掘りしていきたい」「とにかく近づきたい」という思いが強くなり、「入りたい」に変わっていきました。

「どうしてもgricoに入りたい」と思ったのは、実際にサロンに行ってエザキにカットしてもらったときですね。そのときは、カットだけの1時間だったんですが、本当に僕だけのためにお話をしてくれて。まるでマンツーマンのセミナーを受けているような感覚でした。そのときに入社後のイメージが見えて、「働くならここしかない!」と。その場でエザキに「gricoを目指します」と伝えました。

2024年7月にオープンした新店舗、「grico NaniYo」

―― 実際に入社して、エザキさんから最も影響を受けたのはどんなことでしょうか?

寺尾やはり「関わる人を幸せにする」という考え方です。もともと自分の中で意識していたことではあるのですが、実際にその考え方を誰よりも実践しているのを目の当たりにするなかで、自分自身もこうありたいなと思いましたね。

入社後は、それ以外の技術にしてもgricoの紹介の仕方にしても、とにかくエザキの真似をすることを徹底していました。

同じ失敗をしない。準備を怠らない。真面目にやっていくことで道は開けると信じて

―― 寺尾さんは、gricoで当時最速の2年でスタイリストデビューを果たしていますが、その要因はなんだと思いますか?

寺尾とにかく、真面目にやってきたことだと思います。入社したときから誰よりも早くスタイリストになると決意して、同じ失敗を繰り返さないことはもちろん、人の失敗も自分の失敗のように受け止めていました。同期のアシスタントが叱られているときもその内容をこっそり聞いて、同じミスをしないように気をつけていましたね。

必要な準備を先回りしてやることもそうです。例えば、エザキが出勤して先輩が業務報告をするとき、僕は必ず近くで掃除しながら、2人の会話に出てきたものを頼まれる前にさっと用意していました。

―― そういった工夫や取り組みをコツコツ続けることが、スタイリストデビューにつながっていったんですね。

寺尾そうですね。その積み重ねで「この子は振ったらすぐやる」「仕事を頼みやすい」という印象をつくることができたんだと思います。

僕は入社して1年目でエザキの専属アシスタントになり、その年と翌年には国内外の出張に同行させてもらいました。若手でも難しい仕事を任せてもらえたのは、「寺尾はちゃんとやる」と思ってもらえていたからだと考えています。サボらない、準備を怠らない、求められることを一つ一つしっかりこなす。その繰り返しで信頼を積み上げる姿勢を評価していただいたのかなと。今となっては、この真面目さや真っ直ぐさが自分の色になっていると思います。

店長として、若いスタッフが「やりたいこと」を実現できる環境をつくってあげたい

―― 現在、店長として心掛けていることを教えてください。

寺尾店長として、後輩たちがやりたいと言ったことをできるだけ実現してあげたいという気持ちが強いです。ただ、自分一人でやるのとは違って、人を動かすことはとても難しい。だからこそ、まずは自分がちゃんとやっている姿を見せるようにしています。

例えば、お客様への接し方やスタッフとのコミュニケーション、あとは店全体の雰囲気も意識して見るようにすること。練習についてなど少し厳しく言うこともありますが、やっぱり基本をちゃんとやってこそ、新しいことに挑戦できると思っています。

また、スタッフ一人ひとりが自分の役割に集中できるようにムダを削って、本当にやるべきことに集中できる体制づくりも意識しています。

―― 店長になって「難しい」と感じたことはありますか?

寺尾僕はどちらかというとアイデアを形にするのが得意で、ゼロからアイデアを出すのは苦手なタイプです。とはいえ、お店を長く続けていくためには新しい考えを生み出すことも重要で。だからこそ「考え続けること」を大切にしています。

今のところ店舗は良い状態にあると感じていますが、上手くいっているときこそ「どうすればもっと良くなるか」を考え続けなければいけません。そういう思考は経営者に必要なことですし、僕自身もいずれエザキの役割を継ぎたいと思っているので、経営者の感覚に近づけていきたいと思っています。

誰に切ってもらうかと同じく“誰から買うか”が重要。「grico vintage」で感じた新たな可能性

―― 2024年にはgricoの新業態となる「grico vintage」がスタートしました。寺尾さんはどのように関わっているのでしょうか?

寺尾買い付けや販売がメインです。直近では、エザキと一緒にアメリカへ買い付けに行きました。出張での買い付けは大変なことも多かったですが、その服が辿ってきたストーリーや背景を知って、改めてその価値を感じましたね。商品のストーリーや僕たち自身が感じた価値をお客様に伝えることで、“モノ”以上の意味を提供したいと思っています。

―― grico vintageについて、お客様からはどんな反応がありましたか?

寺尾髪をカットした後に見てくださる方もいれば、服だけを買いに来てくださる方もいらっしゃいます。中には、僕たちがアメリカで買い付けた服だから買ってくださるという方もいて。僕たちが“かっこいい”と思って買い付けたものが、そのまま届く嬉しさがあります。

―― お客様が寺尾さんに信頼を寄せているのが伝わってきます。

寺尾僕たち自身で買い付けてるってことが、やっぱり重要なんだと思います。サロンで「誰に切ってもらうか」が重視されるように、モノも「誰から買うか」が大事。僕たちの場合はお客様と髪を通して信頼関係が生まれてるので、あとはいかに服に興味を持ってもらうかだと考えています。

それでいうと、僕たちのサロンワークは予約制なので、事前にどのお客様が来店されるか分かるんですよね。担当するお客様におすすめしたい商品がある日など、その方を思い浮かべて自分の服装や髪型を選ぶことも多いです。そこから会話が弾んで、商品の購入につながることもあります。

―― ヘアスタイルとファッションの“似合わせ”はどのように意識していますか?

寺尾実は、髪と服ってすごくリンクしていると思います。お客様が定期的に通ってくださる中で、だんだん好きなテイストが分かってくるので、髪も服も似合わせられる自信がありますね。基本的にはヘアスタイルをもとに服を提案することが多いですが、服が好きなお客様には、そのファッションをもとに髪型を提案することもあります。

寺尾普段から僕は髪だけじゃなくて、全体を見てバランスを考えるんです。髪、服、靴など、全体の雰囲気を大事にしています。例えば「このテイストの服ならこんな髪型も似合うな」とか「この髪型ならこんな服も似合いそう」といったことを考えています。その人の印象が全体を通してガッチリはまると嬉しいですね。

―― 髪の毛だけでなく、トータルでのコーディネートを考えているんですね。

寺尾そうなんです。ただ、僕は「プロデュースしてる」というより「お客様と一緒につくってる」という意識が強いです。美容師は、お客様の髪の毛があってこそ、お客様がサロンに来てくださるからこそ成立する仕事。そこに服が加わって、もっと深く「トータル」で一緒につくっている感覚になりますね。

特に髪の状態は天気や湿度で大きく変わってきますし、まさに“生きてる”って感じがします。それをお客様と一緒につくれている実感が、本当に嬉しいんです。

大切なのは「人に喜んでもらいたい」という気持ち。その軸がブレなければ良い美容師になれる

―― これから挑戦してみたいことや実現してみたいことはありますか?

寺尾自分のアイデアやつながりをいかして、お店の新しい事業をつくることや、仕事を広げていくことをしたいですね。

万が一、エザキに何かあったとしても「大丈夫です」と言える状態にしておくのが僕の役割でもあると思っているので、自分で仕事を生み出せる状態をつくっておきたいんですよね。エザキがこれまで築いてきたことをしっかり引き継ぐことが、これから求められる役割だと思ってます。

―― 最後に、全国の美容師を目指す学生や若手の美容師さんに向けて、メッセージをお願いします。

寺尾最初は「どこで働くか」とか「どうなりたいか」よりも、「楽しい」と感じられることが大事なんじゃないかなと思います。自分が「ここ好きだな、楽しいな」と思える場所にいられたら、それが長く続けられる理由になります。

美容師って、突き詰めれば人を幸せにする仕事だと思っています。だから「人を幸せにする」という思いさえブレなければ、どんなやり方でもいい美容師になれるはずなんです。

寺尾僕の場合はとにかくまっすぐ頑張ることが正解だったけれど、それが全員に当てはまるわけではありません。自分の向き不向きは気にせずに、まずは目の前の人や物事に真剣に向き合ってもらいたいですね。どんなタイプの人でも、「人を幸せにしたい、喜ばせたい」という気持ちを持って、自分が楽しいと思える場所で頑張れば、自然と自分の形ができてくると思います。

Profile
grico 店長 寺尾フミヤ

寺尾フミヤFumiya Terao

grico 店長

2017年に新卒でgricoに入社。1年目からgrico代表・エザキヨシタカの専属アシスタントとして帯同し、ヘアメイクなどを担当する。当時最速となる2年でのスタイリストデビューを果たし、2023年8月に店長に就任。サロンワーク以外にもファッション誌などの表紙や巻頭でのヘアメイク、セミナー講師、サロンのコンサルティングなど幅広く活躍する。

Instagram:@grico_terao

「grico HARAJUKU」サロン情報

抜け感と外国人風のスタイルに特化したヘアサロン。「再現性」と「ふわっとした柔らかさ」を実現する”gricoの抜け感カット”は原宿トップレベルの技術を誇る。一人ひとりのお客様に合わせた種類豊富な”オーダーメイドカラー”も好評。おしゃれさの中に遊び心のある雰囲気もお客様から愛される理由となっている。

店舗数 5店舗
従業員数 17名
サロンコンセプト 抜け感&外国人風のスタイルを叶えるサロン
サロンターゲット トレンド感度が高い20〜30代の男女

「grico HARAJUKU」店舗情報

所在地:
〒150-0001
東京都渋谷区神宮前6-14-12モード・エス2F

Webサイト:http://grico-h.com/
Instagram:@gricoharajuku

(取材・文/池山章子、編集/A PRESS編集部、撮影/西澤大和)

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