NEXT GENERATION #01 | CARTA テリさん 「サロンワークとクリエイション、どちらが欠けても成り立たない」。やりたい! から広がる美容師の道

Mar 13.2025
COLUMN

今注目の若手美容師を紹介する本連載。1回目はJR大阪駅から徒歩圏内、大阪市福島区のサロン「CARTA(カータ)」のテリさん。彼女は、入社からわずか1年足らずでスタイリストデビューを果たし、店内史上最速で最高売上を更新。アシスタント時代から本格的にクリエイティブワークに打ち込み、美容師歴5年にしてコンテストで受賞を重ね、2024年にはパリコレのヘアチームにも参加。さらに「テリ会」という名前の撮影会を主催し、美容学生からサロンオーナーに至るまでクリエイションの楽しさを伝える活動も行っています。
「サロンワークとクリエイティブワーク、どちらも自分にとって欠かせないもの」。そう語るテリさんの活動の土台には、作品づくりへの行動力と周囲の支え、そして人を喜ばせたいという想いがあることが分かりました。

「海外で働きたい」。幼い頃の夢を叶えるために美容師の道へ

―― まず、美容師を志したきっかけについて教えてください。

テリさん(以下敬称略)小さい頃から海外で働くことが夢で、そのためには手に職が必要だと思っていました。絵を描くのが好きだったので芸大に行くことも考えたのですが、ヘアアレンジも好きだし美容学校もいいかな、という気持ちで「美容師」という進路を決めました。

―― 海外で働くための選択肢として「美容師」が挙がったのですね。

テリそうなんです。あと、洋楽や洋画が好きで、外国人との結婚にも憧れていて(笑)。なんにせよ、そのためには海外に行かないとダメだと思っていました。実際、美容学校へ行き始めたら、学科も実習もすごく楽しくて。夢中になって取り組んでいたら成績も上がり、ロンドン研修へ行くこともできました。その経験から海外での就職も考えたのですが、日本で技術を高めてからでも遅くないと思い直し、縁があってCARTAに入社しました。

―― なぜCARTAを選ばれたのでしょうか?

テリ当時、CARTAはオープンして8年目だったのですが、なんといっても“離職率ゼロ”というところが大きな理由でした。CARTAの離職率の低さは美容学生の頃から聞いていて。離職率の低い環境なら、腰を据えてしっかり学べると思い、CARTAを選びました。

―― 美容業界で、離職率ゼロってなかなか難しいことですよね。スタイリストデビューも最速だったと伺いましたが、どのようなアシスタント時代を過ごしていたのでしょうか?

テリ入社して半年後ぐらいにヘアクリエイティブの師匠と出会うのですが、その師匠から「まずやるべきことはサロンワークで、その上でのクリエイティブワークだ」と言われました。「それならば最速デビューで最高売上を目指そう!」と決め、朝晩の練習はもちろん、他のアシスタントの2倍は動くぞという意識を持って働いていました。

自らの行動力で開いた、クリエイティブワークへの扉

―― ヘアクリエイティブの師匠とは、どのような出会いだったのでしょうか?

テリ師匠は「nico hair」の大野紘一さんという、さまざまなヘアコンテストで受賞されている方なのですが、美容学生時代に一度撮影していただいたことがあって。あるとき、大野さんが大阪に来ていると知り、「アシスタントでもクリエイティブワークができる方法を知りたい」と思って、思い切って会いに行ったんです。

ところが行ってみたら、撮影終わりであまり話せず、準備していた質問も聞けずで…。でも、そのとき、「明日、岡山で撮影があるから来なよ」と言われて。それで翌日岡山に行って、改めてお話をして、弟子にしてもらいました。

―― すごい行動力です…! 元々、クリエイティブワークには興味があったのでしょうか?

テリはい、学生の頃から作品撮りが好きでした。ただ、CARTAはクリエイティブワークに力を入れているサロンではないので、どうしようかなと悩んでいたところでしたね。

―― 弟子入りして、どのようなことをされたのでしょうか?

テリ最初は撮影の様子を見せていただきながら、カメラの使い方を教わりました。その後、撮影アシスタントとして現場に携わり、次第に自分でも撮影をするようになっていきました。結果的に、CARTAでアシスタントをしながら、師匠に2年半ほどご指導いただきました。

―― すごく大変そうなのですが、どのようなスケジュールでしたか?

テリ私は月火で固定休をいただいていたので、日曜の夜から前乗りで撮影現場に入り、翌日また別の場所に行って撮影。そのまま水曜の始発で大阪に戻ってそのまま出勤…というスケジュールが多かったですね。あと、並行してヘアメイクスクールにも通っていました。

―― ハードスケジュールですね…。今はどのようなクリエイティブワークをされていますか?

テリサロンワークと並行して、JHAなどのヘアコンテストに挑戦しながら、美容学生に向けて講師をしています。あとは「テリ会」といって、私がディレクションする撮影会を全国で行っています。

美容学生からサロンオーナーまでが参加する、クリエイションの楽しさを伝えるテリ会

テリ会の様子

―― 「テリ会」では、どのようなことをしているのでしょうか。

テリ美容師さんや美容学生さんを対象に、作品撮りのディレクションと撮影を私が担当し、参加者の方には作品づくりをしてもらいます。流れとしては、撮影前に参加者からあらかじめデザインシートをいただいて、当日に仕込みをして撮影。その後、私がレタッチしたデータをお渡しする、という流れです。

参加者の年代は幅広く、若手から50代のオーナーさんまでいらっしゃいます。目的もそれぞれで、コンテストや業界誌掲載を目指す方だけでなく、サロンワークとは違うことをしたい方、スタッフに頑張っている姿を見せたいという方もいらっしゃいます。

―― 「テリ会」はどのような経緯で始めたのでしょうか?

テリ弟子として修行していた頃は、大野さんのお客様を撮らせていただいていたのですが、撮影をしていく中で「自分の視点でも作品を作りたい」と思うようになり、カメラを購入しました。それをきっかけに、自分でも撮影会を主催するようになりました。

―― 規模感はどのくらいでしょうか?

テリそのときによりますが、3名の場合もあれば美容学生30名を相手に行うこともあります。

―― 1人で30名の作品を見るんですか! サロンワークもやりながら!

テリサロンワークが終わってから家に帰り、作ってもらった作品をチェックするので、気づいたら深夜3時になっていたこともありましたね(笑)。

―― 時間を忘れるほど没頭されるんですね。作品に対しては、どのようにアドバイスをするのでしょうか?

テリ最初のうちは、師匠から教わったことを引っ張り出して伝えるのが精一杯でした。でも、撮影会を重ねるうちに、技術を伝えることだけがすべてではないと気づいて。だから今は、その人がどんなことを知りたいのかによって、教え方などを変えています。

その瞬間の気持ちを、作品にのせて。テリさん流作品づくりのプロセス

―― ご自身の作品制作についてもお伺いします。いつもはどのようなプロセスで作品を作っていますか?

テリ私の場合、最初にテーマを決めて、それに沿って制作することはあまりしません。そのときの気持ちや出来事をそのまま作品にすることが多いです。やっぱり人間だから気持ちに波があるし、その時々の感情を大事にしたいので、モデルさんと話しながら得たインスピレーションを作品に落とし込んでいきます。

テリさんの作品

―― テリさんの作品はアート作品のような印象を受けます。何か影響を受けているものはありますか?

テリ絵と音楽の影響が大きいですね。家にキャンバスがたくさんあって、何か思いついたときや作品制作に悩んだときに絵を描くんです。絵はモデルさんを介さないので、本当に自分だけのもの。ストレートに表現できるんです。それをもとに作品に派生させることもあります。音楽はその曲からイメージするもの、例えばロックなら「硬い、短い」、クラシックなら「柔らかく流れるような」みたいに。そうやって一旦、自分の中で解釈してからクリエイションに落とし込むという感じです。

3ヶ月休職をして海外渡航。感じたことは、「美とはもっと自由で、多様であっていい」

2024-25年秋冬 パリコレクションの様子

―― 2024年は海外に3ヶ月間行かれたと伺いました。どんな目的で行かれたのでしょうか?

テリ最初は「パリコレに行きたい」という目的でオーナーに相談したんです。「売上も含めて、どうお店に還元すれば、1ヶ月のお休みをもらえますか?」と相談したら、「1ヶ月じゃ人生変わらないから、3ヶ月好きにしていいよ」と言ってもらえて。3ヶ月もあるなら、路上カットで世界一周したいなと考えました。

―― オーナーさんからそう言ってくれるのはありがたいですね。海外での路上カットはいかがでしたか?

テリ結果から言うと、それはできなくて。でも、カナダにいる知り合いのつてを辿ってカットをしたり、各地のサロン見学などをしたりした後、パリコレに参加しました。

予定では、アメリカからカナダ、ヨーロッパと回るつもりだったのですが、はじめに訪れたハワイで強制送還されてしまい…。その後なんとかカナダに入国できたのですが、シザーの持ち込みでトラブルになるのが怖かったので、道具は現地で一式揃えました。

―― 波瀾万丈ですね! パリコレにはどのような形で参加したのでしょうか?

テリパリ在住の日本人美容師さんに紹介してもらい、世界的なヘアアーティストのチームに入りました。さらに、その方のつながりで某メーカーのコレクションチームにも所属させてもらいました。

―― 現場はいかがでしたか?

テリ向こうは完全に個人主義。誰かの指示を待って動くのではなく、自分で動かないといけないんです。逆に新入りの私でもメインチームのアシストをするだけでなく、ヘアを直接担当することもありました。なので、積極的に動いて、できる仕事をどんどん取っていきました。

―― パリコレを含め、海外渡航でどのような気づきがありましたか?

テリ自分ではあまり自覚がないのですが、周りから「丸くなった」と言われることが多くなりました。海外に行く前は、タスクが多くて寝る時間も少なく、無意識のうちにピリピリしていたのかもしれません。そんな背景もあって、帰国後は時間の使い方が変わり、身近な人、特にお客様と、よりしっかり向き合うようになりました。

また改めて、さまざまな「美」の形があると感じました。以前から、日本の美容業界では、若くて華奢な女性ばかりが作品の中心になることに違和感があったんです。普段のサロンワークでは、さまざまなお客様と向き合っているのに、作品になると途端に若い女性ばかりの現状がとにかく不思議でした。

―― 確かに。 海外の「美」とは、どのようなものだと感じましたか?

テリ「美しい」とされる基準がまったく違うと感じました。例えば、カーリーヘアや日焼けした肌、大きなお尻など、日本ではコンプレックスとされがちなものを「個性」としてポジティブに受け止められている。

私自身、海外でアジア人であることでの偏見を感じたこともありましたが、それ以上に、現地の人から自分の髪型や服装、目の色を「かわいい」と、ダイレクトに褒めてもらう経験がたくさんあって。こうした経験を通じて、「美とはもっと自由で、多様であっていい」と改めて考えるようになりました。

クリエイティブワークとサロンワーク、どっちもないと面白くない

―― ここまでクリエイティブワークについて多く伺いましたが、改めてサロンワークと両立する理由について教えてください。

テリそうですね。たぶん私、クリエイティブワークだけだったら、もう辞めていたと思います。お客様と話せる時間や、デザインを楽しんでもらえる時間があって、それでバランスが取れている。

お客様の髪や骨格に触れることで、作品づくりの源になっていることもあれば、クリエイティブワークをすることで周囲の方が喜んでくれるという側面もあります。なので、サロンワークとクリエイティブワーク、どっちもやってこそ見えてくるものがあると思っています。大野さんやレジェンド美容師の方々も、「サロンワークとクリエイティブワークは必ず一つにつながる瞬間がある」とおっしゃるんです。最近その意味が分かるようになってきました。「人を喜ばせる」っていう点で、根本は同じなんですよね。

―― なるほど。モデルさんやお客様、作品を見た方を「喜ばせる」という点でつながっているのですね。

テリそうですね。特にお客様には、クリエイティブワークの話を自分からしないのですが、飾ってあるトロフィーを見て応援してくださるんです。作品づくりは、自分と向き合う時間ですが、決して1人でやっているものではないと感じます。だからこそ、応援している人たちに何かお返しがしたいという気持ちが常にあります。

あと、コンテスト前のナーバスな時期には、CARTAのスタッフがサポートをしてくれたりして、本当に助けられています。オーナーも、他のサロンの美容師さんに弟子入りすることを許してくれたりと、私がやりたいことをいつも後押ししてくれる。きっと、CARTAじゃなかったらクリエイティブワークを続けるのは難しかったと思います。そうした周囲の支えが、私の原動力になっていると思いますね。

店内に飾られるテリさんのトロフィー

テリあと、「有名になりたい」とか「全国に行きたい」というよりも、「自分だけの作品を作りたい」という気持ちがあって、それを応援してくれる人たちへお返しをしたい。その思いが強いです。結果が出たら、応援してくれた人たちへのお返しになり、また次の作品を作る原動力になる。そういう循環の中で、私はクリエイティブワークをやっているんだと思います。

―― 1人で完結するように見える作品づくりですが、周囲の力添えがあってこそできるのですね。最後に、クリエイティブワークに挑戦したいと思っている美容師さんに、アドバイスをお願いします。

テリなるようにしかならないので、とりあえずやってみればいいと思います。よく「モデル探しが大変」「何から始めたらいいか分からない」と聞きますが、実際やってみると、思ったほどハードルは高くなくて。やってみて、もし合わなければやめればいいだけ。

私は「自分が楽しめること」を第一に考えていて、その中でクリエイションは欠かせないもののひとつ。最初の一歩をどう踏み出せば良いか分からないのであれば、ぜひ一度テリ会に来てみてください(笑)。

Profile
CARTA スタイリスト兼クリエイティブリーダー テリ

テリTeri

CARTA スタイリスト兼クリエイティブリーダー

大阪府出身。関西美容専門学校を主席で卒業後、「CARTA」に入社。入社から1年わずかで、スタイリストデビューを果たす。カラーやハイトーン、パーソナルカラーと骨格にフィットした似合わせが得意で同世代から熱い支持を得る。クリエイション活動においては、最年少受賞歴や最年少講師などさまざまな分野で活躍中。

Instagram:@carta_teri

「CARTA」サロン情報

技術力はもちろん、居心地の良さやお客様との距離感を大切にするサロン。オシャレを楽しみたい女性に向けて、髪質や骨格に合わせたデザインを提案し、「自分に何が似合うのか分からない」という悩みに寄り添うカウンセリングにも力を入れている。オープンから12年間、離職率0%を維持していた実績があり、スタッフ同士の絆が強いのも特徴。まるでファミリーのような温かい雰囲気の中で、一人ひとりの目標や挑戦を全力で応援する。

店舗数 4店舗
従業員数 23名
サロンコンセプト お客様一人ひとりに寄り添うサロン
サロンターゲット 20〜30代の女性を中心に幅広い層

「CARTA」店舗情報

所在地:
〒107-0062
大阪府大阪市福島区福島6丁目16-9エミネンス梅田西1F
Webサイト:https://carta.me/
Instagram:@carta_hair

(文/橘川麻実、取材・編集/A PRESS編集部、撮影/木村華子)