クレンジングオイルジェルを自分の髪に塗ったことも?! 常識を超えた発想を形にする「スタイリング剤開発」の仕事とは|裏方から見る美容の世界

Apr 9.2021
COLUMN

美容の“裏方”であるメーカー。そんなアリミノの社員の視線から美容を見てみる連載企画「裏方から見る美容の世界」第2回です。

新たな製品が日々発売されるスタイリング剤は、頭髪化粧品の中でも競争が激しい分野。種類が多く手に取りやすい分、美容師さんもお客様も、使いやすいものをシビアに見極めています。これまでにない製品を生み出すため、日々研究を重ねているのが「スタイリング剤開発」のお仕事です。

「製品のデザインが気に入って手に取っていただいても、使い心地が良くないとすぐ乗り換えてしまう。でもだからこそ、中身の評価がそのまま結果につながる。大変ですが、やりがいの大きい仕事ですよ」

そう話すのは、2021年1月に発売された「Dance design tuner (ダンスデザインチューナー、以下「dAnce.」)」の開発を担当した研究開発部総合研究所の志村幸一郎(しむら こういちろう)です。開発のために、普通は髪に使わないあるモノを自分の髪に塗ったこともあるそう。さまざまなアイデアで新製品を生み出す「スタイリング剤開発」の現場を覗いてみました。

メイクや洗剤から発想?! まだ世の中にないスタイリング剤開発のため、新技術を追求

新しい製品を作る時は、スタイリング剤とはまったく違うものからヒントを得ることが多いです。たとえば、「dAnce.」の「モダンシマー」。実は、メイク落としで使うクレンジングオイルジェルを参考にしたんです。

「モダンシマー」はトレンドの濡れ髪が作れるアイテム。これまで出ている濡れ髪を作るスタイリング剤の多くはオイルでした。すでにある人気製品と差異化し、新しくて性能も上回るものを作れないかと考えていた折に、クレンジングオイルジェルを見て、これってオイルをジェル化したものだなと気づいたんです。そこでクレンジングオイルジェルを実際に自分の髪に塗ってみました。すると艶やまとまりが出たので、「これはいけるんじゃないか?」と。

この話をすると、別分野の商材を参考にしているのも、実際に髪に塗ってみることも驚かれることがあります。でも、私自身はできるだけ発想をとらわれないように、日用品などヘアケア商材以外をできるだけ参考にしようと、日頃からアンテナを張っています。

「入社当初は、トリートメント開発の参考に洗濯用の柔軟剤を髪につけてみたこともありますね(笑)」

マジックミラー越しにターゲット調査も! スタイリング剤の開発ステップとは?

スタイリング剤開発の流れには主に2パターンあります。一つは、商品開発部からの企画やオーダーに応えるパターン。もう一つが、研究所から「こんな面白い技術があるけど活かせませんか?」と提案するパターンで、今回開発した「dAnce.」は後者でした。

「dAnce.」の開発スタートは、2018年の夏頃。まず私がアリミノや市場のスタイリング剤の売り上げを確認して、上位の製品を「ハードワックス系」「濡れ髪系」のようにカテゴライズしていくことから始めました。その中で、世の中に出ている多くのスタイリング剤は全て、大きく6つに分類できることが分かりました。そこで「dAnce.」は6アイテムのラインアップにし、各分野で今までとは異なる新しいものを作ろうと考えたんです。

次に、分類に合わせ6種類の処方を用意し、商品開発部に提案しました。そこから商品開発部と一緒にターゲットを決めたり、製品の評価方法を考えたりして動いていきます。今回、ターゲットは10代後半〜20代前半の「LINE世代」に決めました。彼ら彼女らの声をしっかり聞くことにこだわったので、実際にヒアリング会場にお越しいただいて試作品を使ってもらったり、座談会で率直な意見を話してもらったりしました。ヒアリングでは実際に使用している様子をマジックミラー越しに見て、スタイリング時に何グラム手に取るのか、どのように使うのかを調べたりもしているんですよ。

ターゲットヒアリングを通して処方を調整したあとは、プロの美容師さんにもヒアリングします。今回は「LECO」「QUQU」代表の内田聡一郎(うちだ そういちろう)さんにアドバイザーとして参加いただきました。プロ目線から使用感やテクスチャーに関するフィードバックを受け、再び製品を調整。納得がいくまで調整を繰り返すので、サロンヒアリングの段階で作成する試作品の数は、1アイテムにつき数十種類に及びます。

私が担当したのは全6アイテムのうち、ハードワックスの「ロッキンムーブ」、クレイワックスの「ハウスエアリー」、ワックスジェルの「ブレイクキープ」、トリートメントオイルジェリーの「モダンシマー」、ミルクの「バレエメロウ」の5つ。全てを並行したスケジュールで開発しました。

といっても、毎日5アイテム開発しているわけではありません。一度取り組んだアイテムは、室温保管で3年品質が保てるか安定性をチェックするのに一定期間寝かさないといけないんです。そこで、1週間1つのアイテムに集中したら次の週は別のアイテム…というように回していき、その間に一度取り組んだアイテムの安定性を確認。実際に3年放置することは現実的ではないので、45℃の過酷な条件で3ヶ月置いて検証しています。

1つのアイテムだけにずっと取り組んでいると煮詰まってしまうこともあるし、あるアイテムで得た知見を別のアイテムに活かすこともできるので、実は複数商品を同時並行で開発するのは良い点が多いんですよ。

アリミノ史上もっとも製品化に難航! 幾多のトラブルを乗り越え生まれた「モダンシマー」

内田さんへのヒアリングで、意見が分かれたのが、冒頭で話したオイルをジェル化した「モダンシマー」でした。

手に取った時は透明なジェルが、手を合わせて揉むと圧力によりオイルに変化します

私の印象として、熟練の美容師さんほど手につけた時に伸びが良いスタイリング剤を求める傾向があります。伸びが良すぎると垂れ落ちたり、分量の調整が難しかったりしますが、美容師さんはスキルでカバーできますし、伸びが良いほうがサロンワークでスムーズに使えるので、使い勝手がいいのかもしれません。

一方で「モダンシマー」は、オイルをジェル化しているので最初の伸びが悪かったんです。しっかり伸ばせばオイルになるけど、それまでの重さが気になると評価いただきました。内田さんからは当初「オイルでもいいんじゃない?」とのアドバイスもいただいていました。でも、ジェル化することでオイルより分量が調整しやすく扱いが簡単で、キープ力が高くなるメリットがあります。ターゲットヒアリングでの評価も高かったこともあり、私としてはどうしても形にしたくて。

これ、処方がすごく難しいんですよ。圧力をかけることでジェルの構造を壊してオイル化する仕組みなので、非常に繊細で、調整の幅が狭いんです。そんな中で、少しでも伸びの良い、サロンワークで使いやすいものになるよう試行錯誤を繰り返しました。内田さんからも「ハマった」とご連絡いただくことができ、納得するものが完成しました。

「内田さんから『ハマりました』と連絡があった時は、本当にほっとしました」

ところが、内田さんからOKをいただいた後も、製品をパッケージに充填する段階でトラブルが発生したんです。試作品の分量であればジェル化していたものが、製造ラインでは一度に何百kgと大量に作り、それをポンプで送るのですが、その際に試作時よりも強い圧力がかかってジェル化が壊れてオイルになってしまって。土壇場で何度も調整しなおして、なんとか発売に漕ぎ着けました。私が知る限り、「モダンシマー」はアリミノ史上もっとも製品化が困難だったのではないかと思います。

「本当に、『モダンシマー』は最後の最後まで大変なアイテムでした…」

「業界の当たり前」から見直した処方を開発。「軸」を決めていたから迷わなかった

開発は、ターゲット層やアドバイザーのみでなく、研究所のスタッフ含めたくさんの方の意見を聞きながら進めますが、人によって異なる意見や正反対の感想が出ることもあります。

「実は、『dAnce.』をはじめに提案した時は、研究所内では低評価だったんです」

たとえばワックスは長い歴史があるスタイリング剤なので、すでに処方として完成していると思われているところがあります。だから最初はなかなか何が新しいのか理解されなかったんです。また、スタイリング剤はその場で触るだけでなく、実際に長時間使ってみないと真価が見えないという点も、評価の違いが生まれた理由でしょう。

一例を挙げると、「ロッキンムーブ」はハードワックスだけど感触が軽く、一日中キープできるところに新しさがあります。実際使ってみると、セット力もキープ力もしっかりあります。それができたのは、ワックスを作る時に業界の当たり前になっていた基本的な素材や製法を見直したから。でも、その感触の軽さに最初は「セット力を落としているからでは?」という感想も出ていました。

そんな中でも自信を持って企画を進めていけたのは、最初に一番大切にする「軸」を決めていたから。軸が定まっていれば、どの評価を改善するべきで、どの点は異なるものなのか判断ができ、途中で迷ってしまうことはありません。「dAnce.」の軸は「キープ力」でした。

「真夏に6時間プレイしても崩れないものを」趣味のバスケで試したキープ力

キープ力の強さでもっともこだわったのはワックスジェルの「ブレイクキープ」です。私はバスケが趣味で、真夏でも休日には6時間プレイすることがあるのですが、そうするとどのスタイリング剤を使っても必ず乱れてきちゃうんですよ。

カチッと固まってキープ力が強いイメージがあるジェルですが、実は汗や湿気に弱くて、時間が経つとへたってしまいがち。これを改善するためにジェルを湿気に強いワックスと混ぜ、キープ力が高く汗や水にも強いけれど、シャンプーですぐに落とせるものを作りました。

試作段階ではキープ力を確かめるために、バスケをする時はいつも違う試作品を使っていました。30種類は自分の髪で試したと思います。候補をある程度絞ったあとは、密閉した小部屋でお湯をグツグツと煮立たせて湿度が100%に近いサウナのよう な空間を作り、そこに試作品をつけたウィッグと従来品をつけたウィッグを並べて高温多湿でもキープできるものを検証したこともありました。

アウトバス系のアイテムでも「キープ力」は軸です。例えばアウトバスのミルクは、つけた時は良くても翌朝にはパサついてしまうものがこれまで多かったんです。そこで「バレエメロウ」はその弱点を克服し、「翌朝までつけた時の質感が保てている」というキープ力を最優先の評価軸に置きました。検証では、ウィッグに塗ったものを一昼夜置き、翌日出社後に改めて状態を確認するなど、その持続性をしっかり確認することに時間を使いましたね。

これまで扱わなかった商品が実は人気?! 開発を通して気づいた、お客様とのギャップ

開発を通して、美容師さんと今の若者のギャップへの気づきもありました。それを反映しているのが、クレイワックスの「ハウスエアリー」です。

クレイワックスはアリミノではこれまで開発したことがありませんでした。なぜなら、固くて伸びが悪く、洗い落ちにくいクレイワックスは、サロンワークでは使いづらかったから。

一方、市場の売上分析でも、ターゲットヒアリングでも、若者ではマット系のクレイワックスに圧倒的な人気があったんです。聞いてみると、「目立ちたくないし、セットしたと分からないようなもののほうが良い」と思っている人がたくさんいることが分かりました。

「このギャップに気づけたのは大きな収穫でした」

スタイリング剤は市場に多くの商品が出ています。その中からお客様が自身の意思で選び、日常の中で使うアイテムだというのが、パーマ剤やカラー剤と違う点です。そのため、お客様の評価もよりシビアで、話題性や見た目で1度は手に取ってもらえても、使い心地が良くないとリピートしてもらえません。反対に言えば、品質が良ければリピートしてもらえる。開発への評価がよりダイレクトに見えるのは、やりがいがありますね。

美容師さんが作ったヘアスタイルをキープし、お客様が自宅で再現できるスタイリング剤を作るのが私たちの仕事。これはスタイリング剤に限らず、カラー剤、パーマ剤でも同じですね。サロンワークのお役に立てるものを作るため日々試行錯誤しています。

Profile
アリミノ研究開発部総合研究所 志村幸一郎

志村幸一郎Koichiro Shimura

アリミノ研究開発部総合研究所

2007年アリミノ入社。以来、総合研究所で新技術の研究や各商材の処方開発に携わる。これまでに、パーマ開発、カラー開発、プライベート商品開発、パーマ・スタイリング開発を経験。「ダンスデザインチューナー」では企画の立ち上げから参画し、「ロッキンムーブ」「ハウスエアリー」「ブレイクキープ」「モダンシマー」「バレエメロウ」の開発を担当した。

(取材・文/小沼理、写真/河合信幸)

裏方から見る美容の世界

この記事で紹介した商品
ダンスデザインチューナー

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商品情報詳細
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